情報の海の漂流者

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僕が「障がい者」や「障碍者」ではなく「障害者」と表記する理由

以前ボランティアで障害者向けイベントのHPを作成して三年くらい運用したのですが、その際に「障害者」という語をどう表記すべきか非常に悩みました。
色々考えた結果個人的には現状「障がい者」や「障碍者」ではなく「障害者」と表記するのがベターだという結論が出て、基本的にこれを使っています。
ただ、正直ベストプラクティスなのかは全く自信がありません。
とりあえず、現時点の知見についてメモを残しておきます。

使用候補

障がい者 漢字の障るに平仮名の「がい」に漢字の者 以下障がい者(表記1)
障害者 漢字の障るに漢字の害に漢字の者。以下障害者(表記2)
障碍者 漢字の障るに石偏に日、一、寸の碍に漢字の者。以下障碍者(表記3)

「障がい者(表記1)」

ポリティカル・コレクトネスの観点から推奨する声が強い表記。でもアクセサビリティ的には微妙だと思っています。
現場からは旧来の「障害者(表記2)」を使用することがためらわれるのでなるべくこれを採用して欲しいという声がありました。
しかし、音声リーダー・音声ブラウザはこの表記を正しく「しょうがいしゃ」と読まないケースがある、という問題点がありました、少なくてもサイト制作段階では。
視覚障害者をターゲットに含むサイトで、音声ブラウザで正常に読まない可能性がある表記を採用するのは問題があるのではないかというのが当時の僕の見解です。

読み上げ検証(当時)

自腹でパソコン用の音声ブラウザでは定番と言われるIEベースの製品を購入して確認をしたのですが、そのソフトは、この表記を「しょうがいしゃ」ではなく「さわりがいしゃ」と読み上げました。
また、当時図書館で調べた雑誌かなにかで、盲学校の生徒の情報収集についての記事があり、最近はスマホを使用する人が増えているという情報を入手したため、スマホ環境も確認しました。
Androidの音声読み上げソフトを使い、スマホ環境の検証をしたところ、そのソフトは「さわがいしゃ」と読み上げました。

PC、スマホともに最初に検証をしたソフトが正しく読まなかった為に、この表記を採用するのは、まだ難しいのではないかと思うようになりました。

読み上げ(現在)

さきほど、最近の音声ブラウザは障がい者(表記1)をちゃんと読んでくれるのだろうかと気になって検索をかけてみた所、現在では対応度が高くなっているという記事が出てきました。
検証してみたいのですが、音声ブラウザは万単位の製品のため出費がためらわれて、現状について自前では未検証です。
ちなみに、僕のAndroidに入っている無料の音声読み上げソフト「ウェブ読み上げ」は2017年9月現在未だに「さわがいしゃ」と読み上げています。
なので僕個人としては視覚障害者をターゲットに含むサイトでこの表記を使うのはまだ早いのではないかと思っています。

障害者(表記2)

害という字がポリティカル・コレクトネス的によろしくないということで随分議論があったようです。
一時期この表記を使わないですむように代わりの表現が模索されたのですが、アクセサビリティ等の要素を考慮すると、今のところこれが一番実用性が高いのではと思っています。
現場にとってポリティカル・コレクトネスの問題は何故儲かりもしないボランティアをやるのかという、価値観の根本に関わる問題のようで非常に抵抗感があるようでした。
僕にとってインターネットエクスプロラーを常用することや、macやiphoneを所有することはアイデンティティに関わる致命的な苦痛なのですが、それと同じような感覚だと理解しています。

この辺のバランスのとり方を当時の僕は思い浮かばなかったのですが、さわりがいしゃ、さわがいしゃでGoogle検索をしたところ、うまい調整方法があるようです。
本文中では障害者(表記2)を使用し、音声ブラウザのアクセサビリティを確保した上で、欄外で意識的に使用していることを説明するという方法で、落とし所としてありだったのではと思います。

SEO的観点

Googleで「障がい者」「障碍者」「障害者」の各キーワードを検索すると結果はそれぞれ異なります。
最近ではGoogleさんがある程度空気を読んで補完してくれるようになりましたが、昔はそこまで賢く無かったので今より違いは顕著でした。
Googleはこの3つのキーワードを類似する別のキーワードとして処理していると思われます。
また、各キーワードの検索回数には顕著な差があり、「障害者」で検索する人が圧倒的に多いことがわかっています。
(以下はGoogle trendsのグラフ 過去10年間一貫して「障害者」)

この語に限らず各用語で健常者に使用されている語彙と当事者が使用している語彙と福祉関係者に使用されている語彙にずれはあり、大体の場合福祉関係者の使用する言葉は少数派となっています。
使用する言葉を全て福祉関係者のそれに合わせると、業界の人以外はほとんど来ないサイトが出来上がります。
かつその語彙というのはwebアクセサビリティという視点で作られているわけではないという問題があります。
福祉系の施設が職員のリクルート目的のサイトを作成する場合それで良いのですが、そうじゃない人をターゲットにする場合どこかで折り合う必要が出てきます。
紙の上で読む為の言葉と、そこから機械的に読み上げられる可能性がある言葉ではやはり要求される仕様が異なっているんだなと感じます。


思想が先にできて環境や社会がそれを追いかけている状態で、市場が狭い障害者周辺では環境の整備まで10年ほどのラグは発生することがある点
社会の変化に対応できるのは情報収集をする余裕がある人だけで、そこから当事者が排除されている可能性がある点
などが見えてきて、さてどうしようかなという話になってきます。

「障碍者」(表記3)

イメージの悪い漢字を使わずに昔の漢字を使って表記しようというものらしいです。
が「碍」の字は常用漢字外で使用頻度が非常に低いという問題があります。
障害者の中には知的障害者の方も含まれていて、難しい漢字はなるべく割けたいという思いがあり、積極的に採用したいという気にはなりませんでした。
ちなみにこの表記を公的制度で使うために、「碍」を常用漢字に入れようという動きがあったようですが、採用されたとしても、既に学校教育を終えた人に勉強をする機会はあまりないので社会的に浸透するまではそれから一世代かかるのではないかという気がしています。

ルビについて

漢字の難易度についての話をするとルビの話に派生する事が多いのでルビについて。
ウェブサイトを作成するhtml言語にはrubyというルビをふるためのタグがあり、自サイトにおいてはルビを振ることが可能です。
が、個人的にはルビはSEO的にマイナスでかつ文章の再利用性が落ちると考えており、好きではありません。
ルビ付きの文章をコピペして再利用するのは非常に難しいのです。
以下はルビのサンプルですが、これをコピーして下のテキストエリアに貼り付けると再利用できないというのがどういう意味かわかりやすいと思います
しょうがいしゃ

イベントをやる以上blogやSNS等である程度拡散して貰いたいという狙いはあるのですが、ルビ付きの文を引用してツイートするのは結構面倒くさいため、SNS的にマイナスの影響がありそうです。
なるべく使用を避けて、簡単な表現や、簡単な漢字を使うことで、運用で対処したいのです。

実装について

音声ブラウザ専用のナビゲーション等

ウェブサイトの見た目を記述するCSSという言語には音声関係の設定項目があり、読み上げ速度や音量や読み上げる人の変更(男性、女性)等ができます。
また、音声のみ表示する項目や音声以外で表示する項目等の設定が可能です。
これによって、ページ上部のナビのリンク(普通に全部を読んでいたら数分かかることがある)をスキップして本文へ誘導、音声のみに解説をつける、等の対応が可能です。
(ただし、音声ブラウザの対応状況は各ソフト依存となります。)

これらの機能を自前で設定していくのはそれなりに大変なので、基本的には最初から基本的な設定が済んでいるテンプレート等を探すのですが、中々ありません。
ホームページを作る有名なシステムにWordPressというものがあり、 screen-reader-text 等、スクリーンリーダーのための機能があるのですが、国内の有名なテンプレート(テーマ)でスクリーンリーダーが正常に動作するものは非常に限られています。
僕は公式テーマ以外で大きな手直し無しでスクリーンリーダー対応可能なテンプレート(テーマ)をほとんど知りません。
そうすると、限られたテンプレートを改造していく結果、毎回同じような見た目になりがちで、たまに気分を変えてかっこいいテーマを改造していくと膨大な手間で死にそうになることが多々あります。

確認作業(テスト)等について

音声ブラウザ対応の確認作業について、複数のブラウザで耳で聞いて検証するのが非常に辛かったのでセレニウム的な何かで自動化できないかなとずっと悩んだあげく
最近、読み上げた文章をgoogle 音声入力に読ませて自動文字起こし、元のテキストと比較する、というアイデアを思いつきました。
今後機会があれば試してみようと思っています。