情報の海の漂流者

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「常識」とは違い、実は若者より高齢者の方がよく寝ているという話について

若者より高齢者のほうが良く眠れている、という話がAP通信で報道されていた。


【3月3日 AFP】高齢者は眠りに問題を抱えがちだと信じられているが、実は年をとるほど睡眠に関する悩みは減り、よく眠れている可能性があるとの研究結果が1日、学術誌「Sleep(睡眠)」に掲載された。

 米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)医学大学院で睡眠を研究するマイケル・グランドナー(Michael Grandner)氏らのチームは、20歳以上の米国人15万人以上に電話調査を行い、睡眠状況を自己申告してもらった。その結果、明らかになったのは80代の人々が最も睡眠に関する悩みが少ないということだった。一方、睡眠の悩みが最も多いのは中年の女性だった。


(後略)
高齢者ほど良く眠れる?定説くつがえす米研究 国際ニュース : AFPBB News
この記事ではあなたの体感ではどうですか?ということを聞いている。その結果高齢者は睡眠に関する悩みが一番少なく、中年女性が一番悩んでいたというわけだ。
調査結果が「老人は眠りが浅くなり、睡眠時間が少なくてもすむ」という通説に反していることから話題になった。
このように、実際に調べてみたら実は老人のほうが睡眠時間が長かったですよ、という話は、しばしば話に上がる。

日本人の平均睡眠時間(平日)

日本人の性別・年齢・職業別の睡眠時間を視覚化した。

上記のグラフは「日本人の生活時間・2010」掲載の表から作成したもの。画像クリックで拡大する。画像を一枚しか張れない場所で議論するために作ったグラフを流用しているので全体:男性・女性・職業別の4つのグラフが横にくっついている連続していないので注意)

NHKの国民生活時間調査は日本人を対象として数十年間継続して行われている調査。
サンプル数は最低でも数千位のオーダー。
これを見ると、日本人の睡眠時間は男女ともに中年期に最小となるU字型であることがわかる。

生物学的理由であるのか?

睡眠時間が加齢と共にU字型の変化をたどることは、本能なのか、それとも社会的理由があるのだろうか?
これについて面白い指摘がある。
小中学生のこどもを持つ母親の土曜日の睡眠時間が「完全学校週5日制」に連動する形で増加したというものだ。
2005年国民生活時間調査から引用する。

完全学校週5日制の実施で10代の睡眠時間が大幅に増え,その母親の年代にあたる女30・40代でも増加した

(完全学校週5日制の実施で)土曜は朝7〜9時に寝ている人が増え,“朝寝坊”化が著しい。

これは社会の変化がそこに住む人の睡眠時間に影響を与えたケースと考えられる。

そういうことを考えていくと

社会的理由により睡眠時間が短くなりやすい層と長くなりやすい層が存在し、それが実際の睡眠時間に影響を与えているのではないかと考えることもできる。

  • 現役世代は有職者である可能性が高く、毎朝決められた時間に起きる必要性がある人が多い。目覚まし時計のお世話になる可能性は高いだろう。
  • 高齢者は年金が出る人が多く、他の世代に比べて毎朝決められた時間に起きる必要性がない人が多い。
  • 家族の中で「朝ごはんの用意をする役」の人は「家族の中で出かける時間が一番早い人」が間にあうように朝食を用意する必要がある→中年女性はこの役を引き受けている確率が高い。

等の社会的事情が現役世代の睡眠時間を相対的に減らし、リタイア後の人たちの睡眠時間を相対的に増やし、中年女性の起床時刻を早くする効果を与えた結果「高齢者は睡眠に関する悩みが一番少なく、中年女性が一番悩んでいた」のではないか?
「実は高齢者ほど睡眠時間が長かった」ではなく「現代社会においては現役世代が無理をしている」というのが実情ではないかと僕は疑っている
この辺をはっきりさせるために、論文の元になった生データを見てみたいのだが、多分公開されていないだろうなぁ