情報の海の漂流者

web上をさまよいつつ気になったことをつぶやいています。

被災地での死を全て放射能の影響とみなす風潮について

というのが一部で話題になっていました。
これは何かというと「放射能汚染に起因する心筋梗塞に依る突然死」が急増している事実があると主張している方がいて、じゃあソースだしてみろと突っ込んでいるという話です。
これに対する反応をみていたら、心筋梗塞を前年比でチェックしてみれば分かるじゃないという意見がちらほらあったので「それちょっと問題あるよ」ということを書いてみます。

問題点

  • 災害後にはストレスや環境の悪化が原因となりうる病気が発生しやすく、たとえ放射能の影響がまったくなくても前年を上回る可能性が高い点
  • それらの死の原因が全て放射能の影響にあるとみなしてしまうと適切な対策がとれなくなり犠牲が増える恐れがある点

twitterでの会話

kuratan福島原発事故前と事故後の「有名人の突然死」の増減を調べてみれば少しは分かる可能性もあり。「有名人」の定義が難しいけど。 http://t.co/yp7wLp3Rlink
kuratanhttp://t.co/MEbBsIWc ←なお福島県の心筋梗塞は事故前でも全国で五位だったので、「福島県の心筋梗塞が原発事故後ベスト5に!」と.. http://t.co/yp7wLp3Rlink
fut573.@kuratan 心筋梗塞は被災ストレスによる災害関連死の事例に出てくるくらいですから。【たとえ放射能の影響がなくても】増えている可能性高いと思いますよ。link
fut573.@kuratan 新潟県中越大震災で数名くらい死因心筋梗塞の災害関連死認定事例が出ていたはず。link
fut573.@kuratan 一般にストレスが発病因子たりうる病気や不衛生が原因で発病しうる病気は災害後に増えます。link
kuratan@fut573 放射能のせいにされたらたまらんですね。link
kuratanhttp://t.co/JMJS2SwV ←.@fut573 こちらに関連しそうなものがありました。「新潟中越地震の循環器緊急疾患の発症に対する影響」link
fut573.@kuratan あ、みたことあるグラフがあるので、僕が読んだ資料はこれかもしれませんね。link
kuratan@fut573 阪神大震災でも東日本大震災でも、ストレスで死んだ人は地震の被害者には含まれていない感じですかね。link
fut573@kuratan 震災関連死扱いになると思いますlink
fut573"平野達男復興相は8日、東日本大震災の避難生活で体調を崩すなどして亡くなった「震災関連死」として認定された人を、国として取りまとめ、近くデータを公表する方針を明らかにした。"と神戸新聞が報道link
fut573[東日本大震災の死者数は現在、警察庁による集計が公式データとして用いられているが、震災関連死は含まれていない。」 http://t.co/ZfkSdqsh @kuratanlink

災害関連死について

  • ストレスが原因で起こりうる病気は災害後に増える傾向がある
  • 住環境の悪化が原因で起こりうる病気は災害後に増える傾向がある
  • 衛生状態の悪化が原因で起こりうる病気は災害後に増える傾向がある

ということは抑えておいたほうがよろしいかと思います。

ストレスが原因の病気について

心筋梗塞の発生因子の中にはストレスが含まれております。
災害を経験したひとは災害ストレスと呼ばれる強いストレスを受けることが知られています。

という資料があってその中に災害時の循環器疾患発症のメカニズムという図表があります。

この図表は災害ストレスが原因となって心疾患が起こるメカニズムについて視覚的にわかりやすく説明していると思います。

という資料もあります。


避難生活と心血管イベントの関係に正の相関関係があることを示し、地震によるライフスタイルの変化が心血管疾患のリスクになることを示した図1
アメリカの同時多発テロ前後の不整脈の発生率を調べ、亜急性のストレスと不整脈との関係を示した図3
辺りは参考になるのではないかと思います。

住環境の変化と病気

「今まで冷暖房完備の生活をして急激な温度変化を避けていた人」が被災して「家が壊れて急激な温度変化を避けられなくなり」風呂上りに冷たい空気に触れたら、心臓がエラいことになる可能性があることは分かりやすいかなと思います。


また心筋梗塞は脱水により血液がネバネバになるとおこりやすくなるという特徴があります。
大規模災害後の被災地では食料や水が不足しがちになり、水分補給が不十分になることがあります。
意外な盲点としてトイレの不備が原因の死というものもあります。
トイレ自体の数が少なかったりもしますし、冬に建物外にあるトイレを使うことを嫌い、排泄回数を減らす目的で水分を控えるたことが原因で心筋梗塞が起こることもあります。

という本があります。
過去の災害におけるトイレ問題について詳しくまとめられているわけですが、この本について神戸大学名誉教授室崎益輝さんが以下のような推薦文を書いています。

六千人以上の尊い犠牲者を出した「阪神・淡路大震災」から10年を経過した。震災10年ということで、国連の地震防災会議に代表されるような「震災の検証活動」が花盛りである。
さて、この検証活動で忘れてならないことは、大震災での死者発生の原因を科学的かつ実践的に明らかにして、「防ぎえた死(ディペンダブルデス)」といわれる悲しい犠牲を軽減する方向を見出すことである。この意味では、約五千人の直接死の主要な原因である。「地震にあぶない住宅環境」の防止策を講じることが、欠かせない。と同時に、約千人の間接死の主要な原因である「被災者に厳しい避難環境」の改善策を講じることも、見逃せない。教訓は対策の行使によってのみ生かされるからである。
大震災から、私は「災害関連死」といわれる間接被害に着目し、その被害軽減の道筋を探ってきた。小学校などの避難所等で心筋梗塞や肺炎などの病気によって、次々と命を落としていかれる実態を目の当たりにした、とても悲しい気持ちになったからである。この災害関連死の原因究明をはかる取り組みの中で、私はまず学校という公共施設の貧しさにいきついた。
避難所となった小学校は、無数の避難者を受け入れるに「あまりに貧弱な施設」であった。寒さを凌ぐ施設もなく、悲しみを癒す空間もない。学校を地域のオアシスというからには、もっと豊かでやさしい空間であるべきだ。と思わずにいられなかった。
ところで、この学校のあり方を問い詰めていく中で、私は関連死の最大の原因である「トイレ問題」にたどりつくことになった。断水や停電で水洗トイレが使用できなくなって、避難者は応急的にあてがわれた仮設トイレに依存せざるを得なくなる。がしかし、その数が足りないことに加えて、くみ取り等の対応が施されないために、トイレにいけなくなってしまった。それが元で、トイレにいくことはもとより、水や食事をとることを我慢するようになって、心筋梗塞や脳梗塞が大量に生み出されたのである。「たかがトイレという気配りのなさ」が悲しい死や防ぎうる死をもたらしたことを知って、愕然とした。昨年の新潟県中越地震でも、寒空に設置された仮設トイレに行くことを嫌って、脳梗塞で亡くなられたお年寄りがいたということを聞き、「トイレ問題はいまだ解決されず」との暗い気持ちになっている。
(中略)

この推薦文を書いたひとは 著書・論文リストを見ればわかるように都市防災の専門家ですね。
そういう人がトイレの不備を阪神淡路大震災の関連死の最大の原因と書いていることはちゃんと考慮する必要があると思います。
また、脱水が原因で心筋梗塞が起こりうるということは夏の脱水症状でも発生しうるということです。
2011年夏の節電ブームによってクーラーの使用を控えたひとが出たことも関連している可能性はあるでしょう。

要するに震災による住環境の悪化が原因で様々な病気が発生するわけですが、心筋梗塞はその代表例なんですね。

衛生状態の悪化が原因で起こりうる病気

被災地は基本的に衛生状態が悪化します。
今年の春には「震災バエ」というものが話題になりましたし、避難所というのは栄養状態が悪く免疫力が低下した人が集団生活をするところなので感染症のリスクが高まります。
今回は心筋梗塞の話なので細かい例を上げるのは控えますが、前述の紹介文にあった肺炎なんかは高リスクです。

被災地では人が通常より簡単に死んでしまう

以上が、被災地では災害関連死というものが起こりうること、心筋梗塞はその中に含まれることの説明になります。
この手の災害関連死は適切な対応を取ることで減らすことが可能であると言われています。
そのためには原因をちゃんと突き止め正しい対応を取る必要があります。
被災地における死は何でもかんでも放射能が原因であるという風潮や先入観が入り込むと適切な対応をとれなくなり、犠牲者が増える恐れがあります。
そういうことを考えると、被災地における病気の発生率を前年のそれと比較し、増えていればそれは放射能によるものだ、という考え方は大変危険だと僕は思います。
災害関連死というものを考慮していないからです。

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