情報の海の漂流者

web上をさまよいつつ気になったことをつぶやいています。

「「保育園を増やせ」はなぜ間違いか?〜政治がなすべき『保育産業革命』〜」(講師:フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏)の文字おこし その3

その1 その2


で、こうしたですね、おうち保育園を代表とする様々な形の保育所というものがたくさんできていくことによって、認可保育園が出せないような地域、あるいは足りないような地域というものをカバーしていくということをまず第一ステップでやります、供給を増やしていきます。で、その後にですね、改革の本丸に歩を進めて行かなければなりません。今からそのお話をします。


私は保育産業というものをきっちり創っていくべきである、というふうな持論を持っております。
どういうことかといいますと……みなさんの中でちょっとご存知の方いらっしゃるかもしれないので、手を上げてください。保育園ってそもそも何のために作られたかご存じの方いらっしゃいますか? 保育園はどの様な用途で最初作られたか。保育園でしょ、といわれるかもしれませんが、さにあらず。実はそもそも保育園というのは元々はですね第二次大戦、太平洋戦争ですね、お父さんが出征して、そして亡くなられた家庭というのが相次いだわけですよね。そうした時にですね、シングルマザーが非常に増えました。そのシングルマザーの方々は働かなくてはいけません。食べていくためには。でその時に子どもはどうするのっていうとですね、あずかってくれる場所がなかなか無いわけですね、焼け野原なんで。そうした戦争未亡人の子どもをあずかるよと、いうために作ろうということではじまったのがこの、保育園という制度なんですね。ですからその時の条件にある保育に欠けるという条件がありまして、それはこのお話の名残になるわけですですね。保育に欠けるという日本語が今でも引き継がれていますけれども、こちらはそうした文脈において条件として出されたものなんです。こうした施設ですので完全に福祉の領域になるのですね。


しかしですね、皆さんも御存知のとおり今では共働き世帯というのが当たり前のものになりました。かつてはですね、専業主婦・サラリーマンという様な家族構成が最も、高度経済成長を支えるには合理的だったので、国も称揚されてその割合というものが非常に高かったのですが、どんどんどんどん減っていき、今は共働きのカップルというのが支配的になってきています。その分岐点はどこかといいますと、96年です。96年に専業主婦世帯を逆転し、共働き世帯が増えていきました。そしてこれは増え続ける傾向にあります。
先進各国でもそうです。特に例えばフランスであるとかはですね、80%近くが共働き世帯になりますので、共働きがほとんど当たり前だということになるわけですね。


さてそうなると保育園というのはどういう施設になるかというと、福祉ではなく当たり前の社会サービスというふうになっていくわけですね。サービスになるわけです。当たり前の社会サービスになっているわけですけれども供給構造自体はですね、昔の福祉のままなのですね。供給体制は未だに配給制と言っても過言ではない体制です。
役所がまずですね、保育園をどこに作りますかというのを決めます。五カ年計画みたいな形で何個必要であるか、じゃあここに出店しようと。
じゃあ出店しようか、というところで公立でやる場合もあるんですけど、事業者さん出店しませんかって募集して、ああじゃあ出店してくださいということをやるわけですね。で、利用者は保育園利用したいですって言ったときにお役所に行って応募して、お役者は、じゃああなた何々保育園ですよ、って形で配給するというような仕組みになっているわけなんですよね。


これって皆さんあたりまえだと思われてるかもしれませんけど、同じことは病院では行われませんよね。そうですよね、皆さん風邪引いちゃったって時にじゃあ品川区役所行こうかっていうふうにはならない訳ですよね。介護だってそうですよね、介護でちょっとヘルパーさんを頼もうって、役所にはかけないわけですよね。直接病院に行ったりとか、直接介護事業者に連絡するはずです。なぜ保育園だけこういう制度なんですか? それは福祉の名残だからですね。配給制がいまだに続いているからなんですね。


さらにですね、たちが悪いことに認可保育園というものを増やそうということでも参入というものが実はきつく絞られてしまっています。具体的にいうとですね、社会福祉法人という特定の法人格だけが参入ができますよというふうにしている自治体がまだまだ多いんですね。なので株式会社で保育園をやっているところは実は2%程度しか無くて、後の殆どは社会福祉法人というふうになるわけです。
社会福祉法人というのは基本的には、地域のある種徳の高い方々が自分のところの財産・土地を供与しますよという形でですね、ある程度の資産をもってそれで社会事業をやりますよというような法人格になるんですけど、こうした所にある種限られてしまっているという問題があります。


おかしいですね、保育園が足りないって言っているのに、なぜ参入の壁を作るんだろうかという様なところが不思議になるわけですね。
この理由は色々あるんですが、話すと長くなるのでまた質疑応答の時にしたいのですが、そういう所があって受給マッチングが最適化されないわけですね。配給制ですから。
一年前にここに出そうと思ってここに出す。でも一年間で人口動態って結構変わるわけですね、ですからここに出そうと思ったときが本当にいいのかどうかというのは、なかなか分からないわけですし、また人口動態が変わってもですね保育園をすぐ移そうかというふうにはしませんので、この地域ごとの需要を完全に織り込んだ形の供給ラインというのは作りようがない、ということになって、横浜市現象というのが起きることです。(音飛び)


というところなんですけども、待機児童問題の本質は保育社会主義というものにある、と言っても過言ではありません。
さてじゃあどうしたらいいのか、というところからですね、私の考えを披瀝させていただきたいと思うんですが、やはり需要をきちんと織り込んだ供給を作るためには、市場というものを使うべきだと思います。資源の最適配分装置としての市場というものを使うべきだと思っております。そうするとですね市場化すると需要のあるところに保育所というものが集まって、需要のないところから撤退していきますので、ある意味受給マッチングというのは適切にされていくわけです。


しかし市場というのは便利である一方、万能ではありません。なぜかといいますと、市場化するとですね、効率的ではあるのですが、でもお金が無い人というのはなかなか使えなくなってしまうわけですね。例えば私費だけの保険の効かないお医者さんが日本全国になったらと考えていただければいいかと思うんですけれども、基本的に公共サービスあるいは人の命が関わるとか、あるいは福祉に関わることというのは、全て市場化すると非人間性が高まるということで、なかなかできないというふうになってしまうわけですね。


じゃあどうしたらいいんだというところでとられる方法がこちらが準市場というような考え方です。英語でいうと、クアジマーケット(quasi-market)というような言い方をしますが、準市場というものが社会保障の分野では提唱されています。これは社会主義とある種市場の合いの子といってもいいかもしれません。


どういうことかといいますと、準市場というのは公的資金、我々の税金というものを投入された市場でございます。利用者は直接契約を行いますが全額負担するのではなくて、(音飛び)みんなが(音飛び)助けるというような仕組みになっているので負担もまぁぼちぼちのところに抑えられるというような仕組みですね。


これはどこかで皆さん見覚えがありますよね。そうです、医療保険市場ですよね。あるいは介護保険市場です。皆さんが風邪をひいて病院にいかれた、かかったお金が一万円だったとします。だけれども皆さん一万円全額払うことはないわけですね。その内の三割負担すればいい、(音飛び、内容は医療保険の共済の具体例について)ですから一万円払う能力がない方も三千円だったら払えるね、ということで多くの日本人がが医療にアクセスできるわけですね。しかし三千円はそういった仕組みがないですのである種お金を持っていない方はお医者さんには行けないということで、富山の薬売りみたいな方々にお願いして薬で何とか治そうという形でやっているわけですね。今でもついこの間までのアメリカにはこうした公的保険準市場というのは無かった、というところで私もアメリカ留学をしていましたが、なかなか医者には行きたがらないというような形でした。


さてこうした準市場というものが、あるのであれば、それを使っていこうじゃないかというところでですね、準市場化のための代表的なツールがバウチャーなんですね。バウチャーという言葉、聞かれたことがある方いらっしゃいますか? あ、ありますねありがとうございます。そうです。バウチャーというのはクーポンみたいなものですね。ある使途にしか使えない現金です。例えばですねアメリカにはフードスタンプというバウチャーがあります。これは何かといいますと(音飛び)低所得者層の方々に紙を渡します。それをもらった低所得者層の方々はグローショリーストア(grocery store)、つまり町の雑貨店ですね、に行ってですね、はいっというふうに渡します。そうするとそれがお金替わりに使えて、食料というものがそのスタンプで買えるような仕組みです。


これのどこが準市場かといいますと、基本的にはですね、こういうことです。つまりグローショリーストア自体にアメリカ政府から補助金が行くわけじゃないんですね、あくまで利用者、受益者に対して補助をする。しかしそれは使途が特定されている。で、利用者がそれを町のグローショリーストア、AストアがいいかなBストアがいいかな(音飛び)選別するので雑貨店同士はきちんと競争するわけですね、良いサービスをして、そして来てもらおうということをするわけですので、基本的にここに市場原理というのが働く、だけれどもお金というのは(音飛び)税金から(音飛び)というような仕組みを取ります。病院もそうですよね、A医院とB医院は基本的には良い医療をしようということで競争関係にある。だけれども(音飛び、全額負担ではないというようなことを言っている)一部税金によって助けられているという仕組みです。こうしたことがですね、バウチャーでは可能になってくる、ということになるわけです。