情報の海の漂流者

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『おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり』販売中止についてのメモ


福音館書店(塚田和敏社長)は28日、月刊「たくさんのふしぎ」の2010年2月号として発売した「おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり」(文・絵、太田大輔)を販売中止にすると、ホームページで発表した。

 対象年齢は小学校3年生からで、発明家のおじいちゃんが2人の孫に江戸時代の暮らしを説明する内容。おじいちゃんはたばこ好きの設定で、喫煙したまま孫たちと同席する場面が何度も描かれている。

 喫煙に反対する団体などから「たばこを礼賛している」「たばこ規制枠組み条約に違反する」といった指摘があり、同社は販売中止を決定した。

 ホームページでは、塚田社長名で「(たばこは)小道具として使用したものであり、喫煙を推奨したりする編集意図はまったくありません」と説明。「しかしながら、子どもの本の出版社として配慮に欠けるものでした」と謝罪した。
(2009年12月29日05時08分 読売新聞)

愛煙家おじいさん登場、児童誌が販売中止に : 文化 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


発端になったのは恐らく以下のブログ。
「たくさんのふしぎ」2010年2月号販売中止に(その1) - 踊る小児科医のblog
「たくさんのふしぎ」2010年2月号販売中止に(その2) - 踊る小児科医のblog

  協力=岩崎均史(たばこと塩の博物館) //


#ここが大問題。たばこと塩の博物館はJTの運営。もしこの著者が喫煙者ではないとしたら、ここまで執拗にタバコをストーリーとは関係なく登場させる必然性は何もなく、この「協力」というものが単なる取材だけでなく何らかの要求と利益供与を含んだ関与であることが濃厚に疑われます。(タバコ会社の「隠れ広告」手段については前記事参照)

「たくさんのふしぎ」2010年2月号販売中止に(その2) - 踊る小児科医のblog


こちらのブログでは、クレジットにたばこと塩の博物館が登場することを理由に、(JTから福音館書店への)
「何らかの何らかの要求と利益供与を含んだ関与であることが濃厚に疑われます。」
としているが、これは決してマナーが良い行為ではない。
事実関係を確認しないで、推測だけで突っ走った点は指摘せざるをえないだろう。
(正しいか正しくないかは別)
社会正義の盾で相手をぶん殴っているようで、どうも好きになれない。


(その後、福音館書店は『おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり』対するJTの関与を否定する文書を掲載した)


なお、巻末にある「協力」は、江戸時代の風俗に詳しい研究者個人として時代考証をお願いしたものです。「たばこと塩の博物館」やその運営母体である日本たばこ産業株式会社と、この作品の企画意図との間には、一切関係はございません。

 子どもの文化に関わる出版社として、今後は、子どもたちの未来と、その未来をとりまく環境にいっそう配慮してまいります。

福音館書店|おしらせ

岩崎均史さんについて


昭和28年、北海道生まれ。

昭和51年、国学院大学文学部卒業。昭和53年から「たばこと塩の博物館」に勤務。現在、同館の主任学芸員。

成城大学非常勤講師、国立歴史民俗博物館客員教授を兼務。

岩崎均史とは - はてなキーワード


著書を見れば一目瞭然だが、この人は江戸時代の文化の専門家である。

広重と歩こう東海道五十三次 (アートセレクション) 落語の博物誌―江戸の文化を読む (歴史文化ライブラリー) 江戸の判じ絵―これを判じてごろうじろ
江戸のなぞ絵〈1〉いろは・江戸名所ほか 江戸のなぞ絵〈3〉野菜・勝手道具ほか 江戸のなぞ絵〈2〉虫・動物ほか

近世初期風俗画 躍動と快楽などの近世風俗関係の企画展にも関わっていて、実績も十分ある。
おじいちゃんが孫に江戸時代の暮らしを説明するという企画ならば、当然のように選択肢に入る人だ。
岩崎均史さんを起用したこと自体を陰謀論的に語るのはどうも行き過ぎのように思える。

たばこと塩の博物館について

ここは、塩やたばこばかり研究している機関ではなく、むしろ周辺研究が優れている。
国や大学とは違ったコンセプトで研究を進めているので、「国内でここにしか研究者がいない」分野もある。
たとえば僕は以前、南米の文明について調べたことがあるのだが、僕の欲しい情報を書いているのは国内ではたばこと塩の博物館の人だけだった。
(南米はタバコの原産地なので、ここが扱っていた)
(国内では)ユニークな研究をしているところなので、大変重宝している。